ベジータ「悪いやつ以外を生き返らせろ」神龍「悪いやつ、とはなんだ？」
えっ
……
……
……なんだ？ なぜ何も起きない？
……
(神龍のところへ瞬間移動)
おい！ 願いは言ったんだ！ 早く叶えろ！
その願いは……叶えられない
どういうことだ！ 条件にはあっているはずだろう！
たしかに条件には合っている。だが……
どういうことだ？ 願いになにか問題でもあったのか？
悪いやつを除いて生き返らせろ、と言ったな？
ああ、そう言った
悪いやつ……とは、なんだ？
なにを言っている！ 悪いやつは悪いやつだ！ 早くしろ！
まあ待て脳筋。私は人間界のことにまだ疎くてな。どういうことなのか教えてくれないか。そうすればすぐにでも願いを叶えてやろう
脳筋なんて言葉知ってる時点で人間界に疎くないだろう！
そう言わず、ぜひ教えて欲しい。時間もないのだろう？
……。わかったよ
うむ、では頼む
悪いやつって言うのはだな、殺しや盗みを働いたりするやつのことだ
それだけか？
それだけじゃないが、大まかにはそんな感じだ
だが、それでいいのか？
なんだ？ なにかまずいのか？
それだと、お前が操られ暴走し、武道会場で殺した連中の８割は蘇らないぞ
なぜだ？
あそこにいた人間の過去を覗いてみたが、８割近くの人間が小さな盗みを働いている
そういう小さいのは含めないんだよ
そうか、しかしそれならば、どのくらいの盗みからが悪いやつなのだ？ それが分からないと、どこまでを生き返らせるべきか分からない
……わかった、じゃあ盗みはいい、殺しを働いたことのある人間だ。それが悪いやつだ
母親を守るためにストーカーを殺した人間がいるが、それも悪いやつでいいか？
それはちがう！ 親を守るのは最高に良いことだ！
……そうか、なるほど。しかし……
なんだ？
お前は意外と親思いな性格だったのだな
黙れ！ とにかくそれは悪いやつじゃない！
しかしそれだけでは殺しの悪いやつの基準がわからぬ……
命を身勝手にもてあそぶ人間だ！ それが悪いやつだ！
なるほど。……では、例えば孫悟空だ、あいつはたくさん殺しを働いているが、悪いやつなのか？
カカロットが悪いやつなわけないだろう！ あいつは正義のために敵を殺しているだけだ！ 身勝手じゃない！
しかし、「強いやつと戦いたい、楽しい」そんなことを言いながら敵を殺したこともあるみたいだぞ？ たしかに地球のためにも戦っていたが
それでもカカロットが悪い殺しをするわけがないだろう！
ベジータ、おめぇオラのことそんな風に思っていてくれてたのか！
カカロット！ なぜここに！
嬉しいぞー
黙れ！！ おい神龍！ カカロットを遠くへ飛ばせ！ まずはそれが願いだ！
願い事を言うときは私の国の言葉で言うルールだ
くそ！！ 表情は変わってないが声がニヤけてやがる！！
じゃあオラは戻るな
……
……話を戻そう
……しかしだベジータ、お前は「カカロットが悪い殺しをするわけがない」と言ったな？
その話をぶり返すな！
違う、過剰反応だ、最初の話の続きをしているだけだ。落ち着け
くそ……！
「カカロットが悪い殺しをするわけがない」。だから「孫悟空は人を殺したが、悪いやつじゃない」。そういうことか？
そうだ
しかしそれだと、初めは「人を殺した者は悪いやつ」であったはずなのに「あいつは悪いやつではない、だから、あいつがした殺しは悪い殺しじゃない」と、論理が逆になってはいないか？
なんだと？
「良くない殺しをした→悪いやつ」
「良い殺しをした→悪くないやつ」
と言う順序だったものが
「悪いやつが殺しをした→良くない殺し」
「悪くないやつが殺しをした→良い殺し」
という順序になってしまっているということだ
それでも別にいいじゃないか
後者の順序だと「悪いやつが殺しをした」の部分で、なぜそいつが「悪いやつ」であるのか、という理由がない
おい、前者とか後者とか言われてももうなにがなんだか分からない、おい、つまりどういうことだ？
なぜ孫悟空が悪いやつではないといえるのか、そこの理由がないだろう
良い殺ししかしていないからだ
それでは前者の順序になってしまっているではないか
……？
なるほどそういうことか、という顔をしているが、語尾がクエスチョンマークになっていて分かってないのがバレバレだ、強がるな
……く
では聞こう、カカロットが犯した殺し全てを見たわけでもないのに、なぜ良い殺ししかしていないと言える？
カカロットが良いやつだからだ
ではなぜカカロットが良いやつだと言える？
良い殺ししかしないからだ……。あっ……
気が付いたな。そうだ、それでは無限ループだ。証明になっていない。「良いやつだから→良い殺ししかしない」 「良い殺ししかしないから→良いやつ」この二つのどちらかしか証明には使えない。
そうなるな……
カカロットの殺しを全て見たわけではない以上、「なぜカカロットが良いやつなのか」の理由が別に必要となる
それは……良いやつだからだ！ 良いやつだから良いやつなんだ、しょうがないだろう！
……そんなにも思っていたのか……
カカロット…あいつがナンバー１だ！
……めちゃめちゃだが……こう言いかえることも出来るな
？
『お前がカカロットのことを良いやつだと思っている、だからカカロットは良いやつだ』
……！ いや、それは違うだろう！
案外違うわけでもなさそうだぞ。そうだな。例えば、ピッコロは悪いやつか？ 勝手な殺しをしているのではないか？
いや、ピッコロは良いやつだ
では、フリーザはどうだ？
悪いやつに決まっているだろう
では、ヤムチャはどうだ？
知らん
なるほど分かった。それではもう一つ聞くが、フリーザは悪いやつだと言ったが、フリーザの一味はフリーザのことを良いやつだと思っているかも知れぬぞ。それはどうだ？
それはフリーザの一味が間違っているだけだ
では、お前は正しいと？
そうだ！
なるほど。やはり、だ。
？
（１）勝手な殺しをしているかもしれないがピッコロは良いやつ
（２）フリーザの一味はフリーザを良いやつだと思っているがそれは間違っていてベジータが正しいからフリーザは悪いやつ
（３）ヤムチャは知らない
この３つから考えれば『お前がカカロットのことを良いやつだと思っている、だからカカロットは良いやつだ』でいいではないか。全て「お前がどう思っているか」で判断されているのだからな
……！ そうだな……確かに、そう……か……？
それどころか、カカロットだけに限らず、すべての人間が良いやつであるか悪いやつであるか、それを分けるのは、お前がその人間を良いやつと思っているか、悪いやつと思っているか、それで決まることになる。
それで……いいのか……？
では聞くが、お前が「良いやつ」だと思っている人間の中に、「悪いやつ」はいるか？
……そうか！ いない！
では問題がないではないか。
そうか……！ なるほど！ 確かに、その通りだ！
では、先ほどの願い、悪いやつを除いて生き返らせろ、だったな
ああ！
そのために良し悪しの基準であるお前に聞こう、悪いやつとはなんだ？ それを元に願いを遂行する
ああ、自分の為だけのために殺人をしたり、弱い立場の人間を差別して迫害したりするような、独裁的で生きる価値のないやつだ！
生きる価値がない？
そうだ！
では、死んでいる悪いやつを生き返らせない、だけでなく、生きている悪いやつを殺すことも出来るが、そうするか？
……そうだな、そうしてくれ！
では、願いをかなえよう……むん……！
これで世界が良くなるぞ！
（願いを叶えるダンス）
……踊るのか……
クネッ ピョインッ
ん？ ……グァッ……グ…ぁ……苦し……これは……どういう……ことだ……？
なにを驚いている。今お前が示した悪いやつの条件３つ、自分の為だけのために殺人する、弱い立場の人間を差別して迫害したりする、独裁的。全てお前の今の願いに当てはまるではないか。
……貴様……ぁ…………
ドサッ
バヒュン
カカロット。どうした。クネッ
……
………………
…………
……
ハッ！
おぉ、ベジータ！ 目が覚めたか！
オレは死んだのでは？
ああ、神龍に蘇らせてもらったよ
そうか……。ということは……。
……？
……カカロット……どっちを言った？
……！
願いは、どっちを言った？
…………どっちてのは、つまり……
そうだ。いや、この場合、「どっちが正しいと判断した？」と聞いたほうが良いか……
………
……「ベジータを生き返らせる」なのか「ベジータの願いで死んだ悪いやつを全員生き返らせる」なのか、どっちを言った？
それは……
クネッ
